CHECKMATE
メインの料理を平らげ、デザートが運ばれてくると、どちらともなく話すタイミングを見計らい始める。
綺麗な薔薇がネイルに施された指先が、静かにティーカップを持ち上げると。
「実はね、私、……………夏桜を利用してる」
「っ………」
「勘がいい夏桜のことだから、薄々勘づいていると思うけど。………夏桜が前に住んでた家を漁ったのは、私よ」
真希は伏目がちにローズヒップティーを口にする。
真希の口から聞きたくなかった。
本当に心から信頼し、唯一悩みなども話せる人物だっただけに、そのショックは計り知れない。
だが、真希が言うように、夏桜は知っていた。
セキュリティーが最高難度のマンションに、いとも簡単に侵入できる人物となれば、それなりに限定されるということを。
しかも昨夜、USB型の監視カメラで撮影された映像に、真希と男の姿を確認していたのだから。
「何も言わないところをみると、分かってたみたいね」
「……………どうしてですか?」
夏桜は遣り切れない思いで尋ねる。
「夏桜も知ってると思うけど、私、シングルマザーで育ったでしょ?」
「………はい」
「国立の大学とはいえ、女手一つで大学まで出すのは本当に難しいの。だから、奨学金を受けたり、やれることは全てやったわ」
真希から、科警研の研究員になるまで物凄く苦労したと聞いていた。
だから、彼女が嘘を吐いているようには思えない。
「科警研に入ってから、毎月コツコツ奨学金の返済もしたわ。だけど、3年前に母に癌が見つかって……。私の学費を優先するあまり、生命保険に入ってなかったのよ」
「えっ……」
「だから、手術費用は何とか工面出来ても、術後の治療費を捻出するお金が無くて………」
「で、………どうしたんですか?」
夏桜は涙目の真希を真っすぐ見据えた。