CHECKMATE


大きな溜息を零した真希は、ゆっくりと視線を上げた。

「金融機関から融資を受けられないか、親戚から借りられないか。あちこち回ったけど、結局終わりの見えづらい治療費用を快く出してくれる人は居なくて」
「っ…………」
「ダメもとでね、所長に頼み込んだの。………2~3年分のお給料を前借り出来ないかって」
「えっ?………それで、所長は何て?」
「……………うん」

真希の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

「とある事と交換条件で、………治療に関わる費用を全額援助してくれる事になったの」
「ッ!?……それって」
「そう、夏桜が考えていることよ」

悔し涙を流す真希は、人目も憚らず頭を下げた。

「夏桜、……お願い。私に、……データを渡してっ」
「っ……」

先輩の事情は把握した夏桜だが、だからと言って簡単に渡せるものでもない。
膝の上でぎゅっと握りしめる手が、僅かに震えている。

「ごめんなさい、先輩。……データは渡せないです」
「こんなに頼み込んでも?」
「………はい」

懇願する真希に対し、遣り切れない思いが募る。

「データは………渡せないですが、治療にかかる費用でしたら、私が無償で全額支払います」
「へ?」
「既に支払われているお金も含めて、私が全額負担しますから、この件から手を引いて貰えませんか?」

夏桜はこれまで様々な研究をして来て、使い切れぬほどのお金を手にして来た。
元々お金が欲しくて研究していた訳ではないので、海外の銀行には腐るほどのお金が眠っている。

そんな夏桜の両親は大金に目が眩み、夏桜を例の製薬会社に売り飛ばしたのである。
それを機に、両親と縁を切った夏桜。

法的処置をし、両親には毎月一定額が送金されるシステムになっている。

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