CHECKMATE


夏の日差しは容赦なく千葉を襲う。
キャップを被っているとはいえ、暑さを紛らわすほどの威力は無い。
気合いを入れ、千葉は意識を集中させた。

2時間が経過し、未だ連絡はない。
倉賀野からも最新の情報が送られて来ない為、千葉は苛々が募っていた。

昼時ということもあり、真横をOLやサラリーマンが急ぎ足で通り過ぎていく。
その瞬間、ほんの僅かだが心地よい風が肌を撫でて行った。

ギラギラと照り付ける太陽を仰ぎ見た次の瞬間、倉賀野から通信を知らせるアラームが鳴った。

「どうした?」
『班長っ、東さんが建物内をかなり移動してます。もしかすると、出て来るかもしれません』
「了解」

千葉は大きく息を吐き、気合を入れ直す。
そしてすぐさま入口へと向かった。

白地に深紅の薔薇模様が施された自動ドア。
マジックミラー仕様になっているようで、中の様子が窺えない。
そのドアの脇に辿り着くと、スーッと静かにドアが開いた。

出て来たのは髪の長い女性で、サングラスと帽子で顔を隠していた。
雑誌やテレビなどでよく見かける芸能人のような恰好の女性を目にして、千葉は夏桜だと一瞬で分かった。

「夏桜」
「ッ?!」

俯き加減の夏桜は千葉の声で顔を上げた。

「倉賀野、聞こえるか?」
『はい』
「東と合流したから切るな?」
『はい、了解です』

耳に挿したままのイヤホンをポケットにしまい、千葉は夏桜の手を掴んだ。

「怒ってる?」
「……怒ってはいない。だが、確実に俺の寿命を縮めたのは確かだな」
「ごめんなさい」
「とりあえず、涼しいとこに行くぞ。暑くて死にそうだ」
「え?もしかして、ずっと外で待ってたの?」
「当たり前だろ」

繋がれた千葉の手は、夏桜の体温より遥かに高かった。

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