CHECKMATE


地下鉄に乗り込んだ2人だが、ドアに凭れかかるようにしている千葉の視線が痛い。

「何で電源切ってたんだ?」
「………ごめんなさい」
「俺を困らせようとしてした訳じゃないよな?」
「………ごめんなさい」
「俺が怒るって分かっててしたんだよな?」
「………ごめんなさい」
「ごめんごめんごめんって………」
「………ごめんなさッ」

次の駅に停車するのに減速した電車がギギギッと揺れた。
その拍子にバランスを崩した夏桜を千葉は長い腕で抱き寄せた。

「家に着いたら、話して貰うからな」

すぐそばに高校生が数人、その横にサラリーマンの姿もある為、この場で話す訳にはいかない。
夏桜は体勢を整えながら、千葉に小さく頷いて見せた。

****

その夜、20時過ぎに帰宅した2人は、いつものルーティーンをこなす。
夏桜が先にシャワーを浴びて、その間に千葉が米を研いでセットする。
作り置きのおかずを温め直し、それを皿に盛りつけて。

ある程度準備が整ったら、千葉はルーフバルコニーに出て一服する。
勤務中は極力喫煙を控えている為、一日の疲れを癒すためにも欠かせない。
夜空とビールと煙草。

これが千葉にとって、リフレッシュする時間なのだ。

気持ちよく吸い終わった頃、ルーフバルコニーに夏桜が現れる。

「空いたよ」
「おぅ」

夏桜のしっとりとした髪が風に靡く。
夏桜の横を通り過ぎる瞬間、ふわっとフローラルないい香りが鼻腔を掠めた。

夏桜は、千葉がシャワーを浴びている間にお味噌汁を作る。
刑事は体が資本だからと、白米を好む千葉。
それに合わせるように、夏桜は毎日お味噌汁を作るようになった。

一見、新婚夫婦のような間の取り方だが、2人の間にはピリピリとした空気が漂っていた。

< 262 / 305 >

この作品をシェア

pagetop