CHECKMATE
忘れていた訳ではない。
彼らの目当てであるデータを私が持っている限り、こうして何度でも脅してくることは承知の上。
夏桜は静かにスマホをバッグの中にしまった。
いざという時の為にバッグにはしまわず、出来るだけ取り出しやすい場所に入れておくように言われている。
だが、カーディガンのポケットだろうが、バッグの中だろうが、さほど変わらないだろう。
夏桜は何事も無かったように視線をテレビへと移した時、視界の片隅にいつもと違うものが映り込んだ。
【本日、午後休診】
珍しく、午後は休診になるらしい。
緊急の手術でも入ったのかしら?
通常、採卵は診察前の早朝に行われ、胚移植(受精卵を子宮に戻す処置)は昼休みに行われる病院(個人経営)が多い。
不妊治療専門の婦人科は、余程のことが無い限り、休診にはならない。
それが、患者優先の治療を施す病院だ。
「あ、だから今日は混んでるんだ」
いつもより待合室が込み合っていて、テレビの声が聴きにくい。
夏桜はバッグからタブレットPCを取り出し、レシピサイトでも観ることにした。
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病院を出た2人。
ジョアンは、前を通り過ぎようとした個人タクシーを止めた。
「え?………ジョアン?」
「オイシイ レストラン デスネ」
「……フッ、OK♪」
てっきりテナントビルの1階のカフェかと思っていた夏桜は、一瞬唖然としてしまった。
だが、ジョアンが奢ると言っているのだから、食べさせたいお店でもあるのかもしれない。
そんな風に思った夏桜はチラッとテナントビルに視線を向けたが、ジョアンと共にタクシーに乗り込んだ。
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一方、千葉は夏桜を送り出すと………。
「猛、証拠資料は纏まってるか?」
「はい、ここに!」
「じゃあ、大至急捜査令状(捜査・差押え許可状)の請求を頼む」
「了解です」
「照さんと水島は任意での取り調べを行い、発布次第、身柄の拘束を頼みます」
「了解」
「了解しました」
険しい顔つきの千葉は、部下に次々と指示を出していた。