CHECKMATE
実は、千葉は夏桜には伏せた状態で事を進めていた。
剣持が元ホステスを口説き、証拠となるデータを入手する一方で、水島は不正の証拠や情報を入手する目的で矢沢レディースクリニックに勤務する看護師に接触していたのだ。
作戦とはいえ、夏桜にはあまりいい印象で無いこともあり、極秘に進めていたのである。
病院内に設置した監視モニターにより、看護師の落合 望(のぞみ・28)が、核となる存在だということが判明した。
矢沢友美が採卵する際には必ず手術室にいる上、ジョアンのような不正に加担している患者の診察や処置には、必ず彼女の姿がある。
当然、矢沢一人の犯行では不可能があると睨んでいた千葉は、密かに伏線を張っていたのだ。
しかも、どこで情報が漏れるとも分からない為、千葉は水島にしか指示を出していない。
落合 望は日頃のストレスを発散する為か、日常的に飲酒していた。
退勤した後、毎日のように飲食店を飲み歩き、時にはショットバーで知り合った男性と夜を共にすることもあった。
千葉自ら落合に接触するつもりだったが、毎晩のように夏桜を放っておく訳にもいかず。
結局、水島に頼ることとなったのだ。
水島は落合が頻繁に顔を出しているバーに通い、接触を試みた。
前回、江藤美穂を口説き落としたことで自信が付いた水島は、難なく落合と親密な関係を築いていった。
すると、完全に酔いが回った落合は、不意に口走ったのだ。
『あの人を助けたいのに……、私には何もできない』と。
あの人というのは、矢沢友美の弟(陽介・30)で胚培養士だということが、調べにより判明した。
いつもは培養室に籠りきりで、他のスタッフとの面識も殆どないらしい。
恐らく不正するにあたり、情報が漏れださないように接点を絶ったのであろう。