CHECKMATE
婦人科の診療は昼夜問わず行う病院(個人クリニック)も少なくない。
排卵する時間は、100人いれば100通りあるようなものだけに、いつでもそのタイミングに合わせ最善の処置を施すことが出来るというのが、もはや人気の秘訣のようなものだ。
それには、排卵の時期を推測できるという力量の持ち主ということが前提だが。
大学時代に知り合ったという矢沢 陽介と落合 望は、友達以上恋人未満といった関係らしい。
幼い頃に母親を病気で亡くし、数年前に父親も他界して、病院を姉一人に押し付けるのは心苦しく思った陽介。
父親が最先端の医療機器を導入したことにより多額の借り入れをしたため、その返済に翻弄する姉を見捨てられなかったのだ。
既に借金は完済し終えて、病院は順調に経営しているという。
だが、それは………不正の上で成り立っているということ。
落合 望は、不本意ながらも病院と姉を救うために不正に加担せざるを得なかった陽介のことを心配し続けている。
出来る事なら今すぐにでも陽介を誘い、他の病院へ再就職したいくらいだと言う。
けれどそれでは、院長である姉を残して行くことになる訳で……。
陽介がそれを望んではいない。
姉だけに罪を背負わせることが出来ないのであろう。
半ば泣き崩れるようにして、落合は水島にそう洩らしていた。
****
『おいっ、一体どうなってんだっ!』
「もしもし?…………朝から電話を寄越すだなんて、どうかされたんですか?」
『チッ』
千葉が捜査・差押え許可状を申請した日の早朝。
矢沢友美の携帯にとある人物が電話を掛けて来た。
その声はかなり怒気を含み、焦りが感じられる。
『いいか、今から言うことをよく聞け。お前らに令状が出る。今すぐどこかに隠れろ』
「え?ど、どういうことですか?」
『どうもこうもないっ!つべこべ言わず、今すぐ海外にでも飛べっ』
「そんなこと急に言われてもっ……、せめて、午前中の診療だけでも……」
『ったく、後はどうなっても知らないからな!』