CHECKMATE

***

『ハッカーとしてお前を雇ったのに、何だこのザマは』
「………申し訳ありません」
『まぁ、いい。奴らの情報が欲しい訳じゃない。分かってんだろうな?』
「…………データ、ですよね」
『分かってんならっ、とっとと持って来い!』

耳をキーンと劈くような声量が、携帯電話のスピーカーから漏れ出した。

『いいか?どんな手を使ってでも手に入れろ』
「…………はい」
『分かってるだろうが、あの方の機嫌を損ねるようなマネだけは、するなよ?』

威圧感のある声音に思わず生唾を飲み込む。
まるで命でも奪いかねない、そんな雰囲気。
いや、確実に命の保証はないだろう。

携帯電話をポケットにしまい、辺りを見回す。
人気が無いことを確認し、警視庁の地下駐車場を後にした。

********

千葉は報告を済ませると、慌てて警視庁を飛び出した。

すぐ目の前にある東京メトロ有楽町線 桜田門駅から有楽町駅まで地下鉄で行き、そこからJR山手線内回りで上野方面へと向かう。
秋葉原に到着すると、大勢の人が行き交う駅構内を軽快な足取りで進む。
そんな千葉の背後に見知らぬ男の姿がある。

千葉は尾行されていることを承知の上、混雑しているトイレへと姿を消した。
数分が経過しても、千葉は出て来ない。
千葉を尾行していた男は苛立ち、トイレへと駆け込む。
けれど、千葉の姿は無かった。

その頃、地下4階にあるつくばエクスプレスの乗り場に千葉の姿がある。
事前にトイレ内に変装用の準備をしておいたのだ。

長身の千葉はバッグパッカーの外国人に扮して、見事に尾行を撒いたのである。

< 271 / 305 >

この作品をシェア

pagetop