CHECKMATE


千葉の目の前に到着したつくばエクスプレスからは、ふんわりとしたボブヘアーの女性が姿を現した。

辺りをキョロキョロしながら、ゆっくりとした足取りで階段へと向かうその女性の腕をそっと掴み、人の流れに乗るように自然と紛れて行った。

改札を出た2人は無言のまま、駅前に停車している車へと乗り込んだ。

「はぁ~、本当にビックリしたぁ」
「驚かせてすまない」
「いえ、私の方こそ、ご迷惑をお掛けしてすみません」

ボブヘアーの女性は、河村真希である。

今日は有給休暇を使って、千葉と打ち合わせをする手筈になっていたのだ。
千葉はウィッグと髭を取り、サングラスも外した。

「倉賀野、例の場所に頼む」
「了解」

2人を乗せた車は新木場方面へと走り出した。

***

千葉は密かに隠れ部屋のようなものを用意していた。

ハッキングされていることと、万が一の時の為に、念には念をと思って。
倉賀野だけには詳細を話し、秘密裏で色々と調べていたのだ。

その隠れアジトのような部屋に真希を連れて来た。
夏桜のデータを欲しがっていることは夏桜から聞いているから、ある意味敵である真希だけに、賭けに出たのだ。

「倉賀野、悪いな。ちょっと席外すな」
「あ、はい」

千葉は真希に合図して別の部屋へと促す。

「夏桜から話は聞いてます」
「ごめんなさい」
「いえ、事情は分かりますので」
「それでも……すみません」

信頼していた先輩に裏切られた夏桜の気持ちを考えると許し難いが、それでも本人が納得しているのだから、自分がどうこう言える立場にないと千葉は考えていた。
けれど……。


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