CHECKMATE
「女を起こせ」
白髪交じりの男は鋭い眼つきで夏桜を見据える。
すると、水の入ったバケツが夏桜に目掛けて振られ、ザバッっという音と共に中の水が夏桜にかかる。
そして、パンッと甲高い破裂音のような響きと共に夏桜の頬に男の平手がヒットした。
「っ……ッ……」
容赦なく目覚めさせられた夏桜。
自分の身に何が起きているのか、一瞬で把握した。
何年も前に、何度も経験した事があるからだ。
「データはどこだ」
「処分した」
「そんなわけないだろ」
「無いものは無い」
夏桜は何が何でも口を開くまいと必死だ。
「吐かないつもりか?」
「だから、処分したって言ってるでしょッ!」
「フッ、そんな口を叩けるのも今のうちだぞ」
「無いものをあげるとは言えないし、殺したければ殺せばいいわ」
自分が生きているからこそ、こうして追われるのだから。
『S』のメンバーを始め、真希先輩も、周りに迷惑をかけてしまう。
それならいっそのこと、データをあの世に持って行けば簡単だと。
死ぬ覚悟は何年も前に出来ている。
それでも、奇跡があるならば……と、僅かな期待を持ち続けて来たのだ。
けれどこれ以上、どうすることも出来ないのならば、データを世に送り出すくらいなら死んだ方がマシだと考えた。
「不老不死とも言える、あのデータさえあれば、どんな事も可能に出来る人間を作り出すことが出来るんだぞ」
「あれはあくまでも実験のデータよ。あれを使ったとしても、全ての人間を作り出したり再生出来るわけじゃないわ!」