CHECKMATE
夏桜が地下に監禁され、強制的に作らされていたのは、『VP-Ⅲ』というコードネームのIP細胞。
既存の細胞を最強化したようなもので、何億倍もの競争実験を勝ち残った最強の細胞を無理やり作ったようなもの。
それだけではない。
様々な動物や植物など、あらゆる細胞をも掛け合わせ、更には特殊変異した細胞をもそれに掛け合わせて。
そうして出来た細胞を作り出せただけでも奇跡に近いのだが、夏桜はそれを更に維持出来る土台である細胞をも作り出したのだ。
特定の細胞があっても何の役にも立たない。
それが別の細胞に取り入れられて初めて役に立つ。
取り込むべき土台すらすり替えてしまえば、人類最強と言っていい細胞が出来上がる。
これは、世にいう『ヴァンパイア』とも呼ばれるような細胞である。
単独では維持できず、必要な栄養(ヴァンパイアであれば血液)を摂取して維持する。
そしてそれは、子へと受け継がれない。
だからこそ、他者を感染させて生き残る術を構築している。
ヴァンパイア同士では不適合で、子へは受け継がれない。
だからこそ、土台となる細胞をも作り出すことで、子へと細胞を受け継ぎ、更なる最強化への進化を求めるという組織の野望。
夏桜が作ったのは、女性の生殖機能を『VP-Ⅲ』に適合させるためのIP細胞なのだ。
だから、自身の体を犠牲にしてまで、女性ホルモンの分泌を操作出来たのだ。
「吐きたくなければ、吐きたくなるようにするまでだ」
男は手下に合図を送ると、カチッとスイッチが押された。
すると、ウィーン、ブオーンッとモーター音が鳴り始める。
夏桜の体にカウントダウンしているものが取り付けられた。
「ここで死んでバラバラになるか、俺にデータを渡すか。お前に残された時間は1時間。よく考えるんだな」
その場にいる男たちが撤収していく。
夏桜は男たちが出て行くのを見据え、瞼を閉じた。