CHECKMATE
「それと」
「……何?」
夏桜に真っすぐ見つめられて、千葉は深呼吸した。
「データなんだが……」
「……ん」
「上からの許可が出た」
「……そう」
「夏桜に判断を委ねるが、処分したいなら、俺が責任を持つから」
チップを取り出すには、無傷では済まない。
例えどんなに小さくても切開しなければならず。
女性の胸にメスを入れる意味を千葉はしかと受け止めようとしていた。
「責任は取らなくても大丈夫よ」
処分するにしても、世界中を揺るがしかねない重要なデータ。
世界中からマークされているような存在なだけに、その責任も重大だから。
「退院する前に処分をお願いします」
「……いいのか?」
「持ち続けるのももう限界だし。あの場で死ねたのなら墓まで持って行けたんだろうけど」
「っ……」
夏桜の言葉の重みが胸を抉る。
これまで何度も死のうと考えたのだろうか?
彼女が背負う運命を変えれるなら……。
燻り始めた淡い感情を素直に伝えていいものか。
彼女を困らせてしまいそうで。
それでも、退院した後に住む場所を考えると、まだ暫く匿った方が良さそうだし。
剣持の方が自分より彼女に合ってる気がするが、剣持に託すのは手放しでは喜べそうにない。
どんな風に伝えるべきか、言葉に詰まり視線を落としていた、その時。
スッと視界の端に黒い影を感じて、無意識にそれに手が伸びていた。
「っ……、ごめんなさい。髪に糸くずみたいなのが付いてて」
髪に伸ばされた彼女の手を無意識に掴んでいた。