CHECKMATE


夏桜があまりにも何事にも動じず、淡白な表情だからか、千葉は今回の任務の重大さが霞むような錯覚に陥った。

そんな千葉の表情を察してか、夏桜はポツリポツリと話し始めた。

「私の個人データは既に見たでしょうから、隠さずに話しておきますね」
「…………」
「以前に勤務していた製薬会社では、半地下のような密室に監禁されて、新薬の開発をさせられていた」
「………」
「でも、それも最初のうちだけ。闇の組織に会社が操られるようになってからは、人体に影響のあるような劇薬の開発をさせられていた」
「…………それで?」
「自分が作った薬で、どこの誰かも分からぬ人に影響を及ぼす事が恐ろしくなって……」
「……それで?」
「自分で煽ったわ」
「は?」
「だから、自分で薬を服用したのよ」

千葉は夏桜の言葉に唖然としてしまった。
淡々と話す彼女の口調がそうさせたのではない。

人体に影響があると解っていながら、それを服用した夏桜。
その突飛な行動に対して、思考が追いつかなかったのである。

「貴方には理解出来ないでしょうね。あんな悍ましい部屋で24時間拘束され、挙句の果てには恐ろしい薬品を作らないとならないという状況が……」

夏桜はグッと奥歯を噛みしめ、瞼を閉じた。

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