CHECKMATE
「千葉さん」
「………ん?」
夏桜の呼び掛けに振り返ると、
「私を護衛するのが貴方の任務かもしれないけれど、『命』より大事なモノは無いわ」
「………」
「私の為に『命』は粗末にしないで……」
「………」
千葉を真っ直ぐ見据えた夏桜。
その表情は、これまでの彼女の半生を物語っていた。
何処となく影があり、悲愴な色が窺える。
千葉はそんな彼女に対し、杞憂に過ぎないとばかりに笑みを浮かべ、
「おやすみ」
何事も無かったかのように爽やかに部屋を後にした。
夏桜の優しさに触れた千葉。
そして、夏桜もまた千葉の優しさに触れた瞬間だった。
翌朝、時間通りに夏桜の迎えに訪れた千葉。
玄関戸の前で待っていると、凛とした姿の夏桜が姿を現した。
「おはよう」
「……おはようございます」
「ゆっくり休めたか?」
「そこそこ」
「そうか」
千葉なりに気を遣って話し掛けたが、夏桜は終始表情を変えず、淡々と口にする。
そういえば、三國が言っていた、『クールビューティー』だと。
駐車場へ向かいながら夏桜を見て、そんな事を思い出した千葉だった。