泣きたい夜には…~Shingo~



向井先生の威圧的な態度と言葉に、ひとみは怯むことなく、


「先生、先生は私の指導医でしたよね?ご自分が手塩にかけて指導した私を信じられないんですか!!!?

これでも私は未熟児のエキスパートです。信じてください!何があっても先生の赤ちゃんは私が必ず助けます!!!!」


ここにいるのは俺の知っている泣き虫のひとみじゃない。


小さな命を救おうと強い意志を持った小児科医 浅倉ひとみだった。


向井先生は大きく頷き、


「わかった、子供の命はお前に預けた。頼んだぞ、浅倉」


ひとみは無言で頷くと、分娩室に入りかけたが背中越しに、


「慎吾、今日は帰れないかもしれないから夕べのカレー、温めて食べてね」


そう言うと、分娩室に入って行った。


「あの先生なら大丈夫。

彼女は何があっても諦めない、絶対助ける、そういう目をしていたわ。

赤ちゃんは必ずあの先生が助けてくれる。私達はここで無事を祈って、分娩室の香澄と生まれてくる赤ちゃんに力を送りましょう」


坂田教授に連絡を済ませ戻って来た教授夫人がひとみの背中を見送りながら言った。


そう、ひとみなら大丈夫。


ひとみなら…


「頑張れ、ひとみ」


小児科医・浅倉ひとみの戦いが始まった。



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