泣きたい夜には…~Shingo~



分娩室前に戻ると、産婦人科医師からの説明があり、母体と赤ちゃんの安全を考え、帝王切開での出産が行われることになった。


分娩室の自動ドアの前で、祈るように見つめる坂田教授夫人。


気丈に振る舞ってはいるが、その胸中は不安でいっぱいに違いない。


俺は先生と廊下の長椅子で、朗報を待った。


「先生は、ひとみのこと…どう思っているのですか?」


向井先生に思い切って聞いてみた。


先生は苦笑すると、


「かなりキツいこと聞くんだな」


そう言うと、ゆっくりと天井を見上げた。


「ひとみのことは今でも好きだ。妥協を許さない頑固な一面もあるが、天真爛漫で可愛くて…そういうところに惹かれた。

ひとみの医師としての素質は未知数だ。このまま順調に育っていけば、将来は教授だって夢なんかじゃない。

だから私はひとみと離れた。恐らく彼女は私と結婚したら、医師を辞めてしまっただろうからね」



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