泣きたい夜には…~Shingo~



ひとみが病院?


継ぐって?


どういうこと?


俺は高山さんの後ろ姿を茫然と見送っていた。


「慎吾?どうしたの?」


ひとみが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


高山さんの一言で気がついた。


俺はひとみのことを医者であるということ以外何も知らないのだということを。


「何でもない。それにしても腹減ったな、たまにはメシ食いに行くか?」


動揺を悟られないように話題を逸らした。


「うんっ!行こ行こ!」


ひとみは子供のようにはしゃいで腕に絡みついてきた。


「私、イタリアンがいいなぁ」


目をキラキラ輝かせるひとみに、


「却下、給料日前だから今日はファミレスな!」


厳しい宣告をする俺。


「えぇぇぇ!!!?そんなぁぁぁ!!!」


激しくがっかりするひとみだが、


「勤務医もサラリーマンと同じだから、あんまり贅沢できないのよね。

ファミレスもいいけど…そうだ!辻堂のショッピングモールでしらす丼食べたい!ねぇ、いいでしょ?」


俺達の恋はまだ始まったばかり。


少しずつお互いのことをわかっていけばいい。


「よーし!給料出たら、横浜でイタリアンのフルコースだ!」


大きく出た俺に、


「やったー!でも、割り勘ね」


笑顔いっぱいのひとみと初夏の訪れを告げる空を見上げた。



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