泣きたい夜には…~Shingo~
「兄が亡くなってから、父は考えたの。私を大学病院の優秀なドクターと結婚させて病院を継がせようと…ありがちな話よね。
今まではそれが当たり前だと思っていたのに、初めて嫌だと思った。自分の人生を自分以外の人に決められたくなかった。
考えているうちにたどり着いた答えが、私が医学部に入って医者になればいいんだ、そうなれば結婚相手は医者じゃなくても自分の好きな相手を選べると。
このことを父に何度も何度も話して納得させた。今思えばこれが私にとって初めての自己主張だったのかも」
俺はひとみの手を包み込むように握り返すと、
「ねぇ、ひとみ…ひとみは医者になって後悔してない?」
ひとみは首を振ると、笑顔で、
「後悔なんてしていないわ。大学にいた頃は医者になることが目標だったから、迷うことなんてなかった。
でも、国家試験に合格して研修医になったばかりの頃は、燃え尽きて目標を見い出せなかったから向井みたいな男に引っかかっちゃって…
あの人と結婚して病院を任せてしまえばいい…なんて思ったこともあったけど」
そう言うと、肩を竦めた。
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