泣きたい夜には…~Shingo~
「ねぇ、慎吾…」
「ん?」
ひとみは天井を向いたまま、
「さっきの話…慎吾だけだよ、話したのは。向井にだって話していない。
でも、私にはとても悲しい話で思い出すのも辛かったのに…不思議と涙は出なかった」
俺はひとみの手を握りしめ、
「それはお前が医者としてしっかりと前を向いて歩いているということじゃないのか?」
ひとみは俺の手を握り返して、
「そうなのかな?よくわからないけど」
部屋の中に沈黙が流れた。
だけど、空気は穏やかで、心地いい。
ひとみとこうして過ごせることがたまらなく嬉しかった。
「また来ような」
ひとみを抱きしめると、
「うん」
ひとみは頷き、俺の胸に顔を埋めた。
「慎吾…抱いて」
ひとみの呟くような声に、心臓が跳ね上がる。
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