泣きたい夜には…~Shingo~



視線の先には…


ひとみの元彼、向井先生が奥さんと思われる女性と仲良く買い物をしている姿があった。


奥さんは妊娠しているようで、大きなお腹を抱えて大変そうな様子。


そんな彼女の代わりにカートを押している向井先生は良き旦那様といったところか。


事情を知らない人には微笑ましく見える情景だが、俺は冷めた目でしか見ることができない。


本当ならば向井の隣にいるのはひとみだったのに、向井先生のひとみへの仕打ちに改めて怒りを覚えた。


「行こうか?」


硬い表情のひとみの手を引き、スーパーを出た。


このところ、ひとみの様子がおかしい。


どこか上の空で考え込んでいることが多くなった。


仕事が忙しいからだと思っていたが、どうもそれだけではないような気がする。


「お前、どうしたんだよ!何かあったのか?」


思い切って聞いてみたが、ひとみは首を振って、


「何でもない」


ただその一言だけ。


いったい何があったというのだろうか?



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