クローバー的恋事情
家から会社の最寄り駅までは一緒に行動したけど、改札口付近からは藤沢さんから離れた。会社の人に見られて変な噂になっては困る。

それなのに、藤沢さんは変わらず隣を歩こうとする。


「私、睨まれたくないので」


「誰に?」


「小島さんにですよ」


名前は小声で言う。小島さんはいつもギリギリの出社らしいから、本人に聞かれることはないと思うけど、用心するにこしたことはない。


「ああ、なるほど。分かった。先に行くよ」


私の胸中をやっと分かってくれて、少し早足で前を歩いていく。


「葵、おはよう。いつもより早くない?」


「わわ、友香、おはよう。少し早いだけだよ。今日で引き継ぎが最後だから緊張しちゃって、早く目が覚めたんだ」


藤沢さんの後ろ姿を見ていたら、不意打ちで声を掛けられて焦った。友香で良かった。他の人に挙動不審な姿を見られたら、怪しく思われる。


「藤沢さんとなにかあった?大丈夫?」


私が販売課に配属になってから、何かと心配してくれる。


「何もないよ」
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