ヤンキーの隣
ヤンキーの隣

本編







世間では、花の高二とも言われる時期に、私は転入した。


二宮 葉月(ニミヤ ハヅキ)、高校二年生。

転入先はミナヅキ高校、略してミナ高。

お世辞にも頭がいいとは言えない、所謂バカ高校である。

しかし、ミナ高よりもバカな上に素行が悪いともっぱら噂な最バカ高校がわりと近場にあるため、本物のバカや不良はそっちに行っているようで、実際通ってきて三ヶ月、思ったよりも普通だ。

クラスメートも教師も良い人ばかりだし、授業もわりと平穏。たまに柄の悪いやつがいるが、関わらなければ問題ない。

転入する前は、不安で仕方なかったが、今では馴染み、高校生活を楽しんでいる。



のだが、



実は一つ、嫌なことがある。

これさえなければ、と思うことが。





「なぁ二宮、宿題みせろ。」

「……どうぞ。」



命令すんなクソ野郎が。

とは決して言わず、ノートを隣の机に置く私

そして、そのノートを開き、自身のノートに書き写し始める金メッシュ

私はその様子を一瞬だけ目にいれるとすぐに逸らし、携帯を弄る。某つぶやきアプリを開き、『お礼も言えねーのかクソ野郎』とだけ呟いて閉じた。もちろん鍵アカに。

しばらくそのまま携帯を弄っていると、5分足らずでノートがぽんと机に置かれる。私は黙ってそのノートを鞄に閉まった。

そして何故かその光景をじっと見る隣の金メッシュ、もとい如月史也(キサラギ フミヤ)が唐突に口を開く。


「二宮って頭いいよな。」

「…そんなことないですよ。」

「なんでこの学校選んだんだ?」

「まぁ色々と。」


無難に返答していく私。恐ろしく会話を繋げてくる如月史也。

これが、私の最近の悩み。

隣の不良がちょいちょい絡んでくるのだ。


この隣の金メッシュ、如月史也はここら辺じゃ有名な不良だ(友人談)

なんたらっていう不良グループの頭的存在らしく、日夜喧嘩に明け暮れているらしい(友人談)

実際、何度か怪我にまれている姿を目にしたことがあるし、不良仲間らしき人と学校で物騒な話をしている場面を見たこともあるため、本当のことなんだろう。

なにより髪型は金メッシュでワックスがっちりキープ、制服は指定のものじゃなく金色の龍の刺繍のある裏地赤のド派手なジャケットを着ている。

学校の登校率は高いが、遅刻・早退・サボりの常習犯である。

教室に来たら来たで、俺は一匹狼だれも近付くんじゃねーよオーラ全快で過ごしている。


まさに不良の見本のような不良である。



そんな不良と隣の席になってしまった私。不運すぎる。



でも最初はまだ良かった。オーラは恐いけれど、こちらから話し掛けなければ向こうも話すことはなかったし、授業にいないことも多かった。
たまに隣の席の人との共同作業的な授業の時は困ったが、それも私一人全負担で行えば問題なかった。

隣の席でも、関わることはほぼなかったのだ。


なのに、



「二宮ってそういえば転入生だったな、なんで転入したんだよ」

「まぁ色々ありまして」

「あ、なんか問題起こしたとか?たまにうちの学校そういう奴いるからよ」

「そうなんですか」

「けど二宮はなんつーか、そんな感じじゃねーな。」



なんだこの状況は。






隣の不良、如月史也のフレンドリー具合は、教室でのコミュニケーション率だけではない。



「次理科室だよな」

「そうですね(理科室に向かう)」

「………。(付いていく)」

「………。」




ちょいちょい移動教室も共にしてきたりする。

やめてくれマジで、と言いたいがそんなこと恐くて言えない。


如月史也自身、授業参加率がそんなに高くないので頻繁ではないが、嫌なものは嫌である。

しかも如月史也と共に廊下を歩くと尋常じゃなく目立つのだ。見掛けたみんなびっくりした顔でこっちを見る。気持ちはわかるがやめてくれ、私も困惑してるんだ、と叫びたい。

友達も、如月史也がいる日は私を移動教室に誘わなくなった。泣きたい。



「あ、俺教科書ねえ。見せろ。」

「あ、はい。」



クソ野郎が。どうせ寝るくせに。




お互いシカトしあっていたあの頃が嘘のようだ。
なぜこうなったのだろう。私に対してだけ(ここ重要)


そう私に対してだけ。


困ることに、キッカケがわからない。突然こうなったのだ。意味がわからない。


誰でも、恐いオーラ全快な不良に急にフレンドリーに接されたら困惑するだろう。

そして、言ってしまえば、私は不良が普通に嫌いだ。恐怖対象であるとともに人間的に嫌悪している。



ゆえに、今の状況は非情に迷惑なのだ。


隣の席でもほぼ関わりのない数ヵ月前の方が数百倍良かった。


とりあえず、早く席替えしたい。先生




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