ヤンキーの隣
それは、授業間の休憩時間のこと。私は机で読書をしている。そして隣には如月史也がいた。
「なぁ、二宮、」
「なんですか、」
「なんでお前敬語なんだよ」
「…………。」
むしろなぜそんなにフランクなんだお前は。私達の心の距離を見てくれ。
私は読んでいた本に目線を逸らさずそのまま答えた。
「このしゃべり方は癖です。」
「は?お前他の女と話してる時はタメ口じゃねーか」
「…………。」
こいつ、よく見てやがる。
「男の人と話すの慣れてなくて…」
「は?よく鈴木とかと喋ってるじゃねーか」
「…………。」
鈴木くんはお前と違って地味なんだよクソが(ひどい)
「如月くん、なんかオーラが凄いからなんだか圧倒されちゃって…」
あながち間違えでもないことを言っておく。すると、今までの反応と違って如月史也は大いに目を見開いた。そして、ぼそっと呟く。
「…もう一回…、」
「え?」
「…名前言え。」
「名前?二宮葉月…」
「ばっ、ちげーよ!俺の名前だ」
「は、……如月史也…」
「そーじゃなくて…」
「……マジなんなの如月くん。」
あ、やべ。つい本音が、と若干焦る私。如月くんを見上げると、なんか少し嬉しそうな顔をしている。キモい
そしてきっぱりとした口調で言った。
「それだ。」
どれだよ。
満足げに私から目線を逸らし、携帯を弄り始めた如月史也。
非情に意味がわからないが、とりあえず話が終結したようなので、よしとしよう。
phhhh ……、
「……あぁ、俺だ、」
しばらくして、着信音がなる。如月史也の携帯からみたいで、すぐに電話に出た。心なしか声が低くなっている気がする。
「…わかった、すぐ行く。それまで耐えろ」
そういって電話を切ると、如月くんはもうスピードで教室を出ていった。それはもう風のように
きっとデンジャラスな世界へと飛び込んでいったのだろう。
突然の如月史也の行動に周りも注目するが、たまに見掛けることなので、すぐに把握し各自自分の世界に戻っていく。
私も変わらず読書を続けた。
「葉月ちゃん葉月ちゃん、ここのところがわからないんだけど、」
「んー?どこ?」
隣の不良がいなくなったせいか、友人が私を尋ねてくる。嬉しい。
次の日、
教室が騒然とした。
「よう二宮、」
「お、はよ…」
昨日飛び出していった如月史也がそこにいた。そこ、というのはいつもの私の隣の席なんだけれども
私も思わず目を見開く
なんせ彼は、尋常じゃなくボロボロだ。
如月史也が怪我をして学校に来ることはよくあることだ。ゆえに驚くことでもない。が、クラスメートも私も今回の彼の姿に驚愕しているのはその怪我の程度だ。
至るところに血の滲んだガーゼ、手足に包帯、至るところに絆創膏、頬は若干青白く腫れている。
おそらく学校に来て良いレベルじゃない。
「ん、どうした二宮」
「いや…、」
どうした二宮、じゃねーよ。学校来んなよ。
「あ、この怪我か?これ昨日銀竜の奴等とやった時にな。大袈裟に手当てされてるだけで大したことねーよ」
「……………。」
その包帯の下、固定ギブスだよね。絶対大怪我じゃん。なんで学校来てるの、馬鹿なの。
「全然痛くもねーしな」
「そうですか。」
お前がそれでいいならいいけど。
私はその痛々しい姿を視界から外し、読書を始める。
見てるだけでこっちが痛くなるので、極力隣は見ないように努めた。