夢のような恋だった


 それから何度か草太くんから電話があったけど、私は出なかった。
これ以上邪魔されたら仕事が終わらなくなってしまう。

 ほぼ徹夜状態で直したイラストを封筒に入れ、担当さんとの待ち合わせ場所に向かう。
原稿の方は先にメールで送付済みだ。

 家の近所の喫茶店で、担当さんである山形さんが待っていた。


「葉山先生、お疲れ様です」

「山形さん、お待たせしました」


はあ、と息を切らせて向かいに座ると、山形さんはすっとメニューを差し出してくれた。


「私、アイスティーで」

「分かりました。じゃあ僕はコーヒーで」


山形さんはどっしりとした感じの大柄な男の人だ。年は三十歳って言っていたような気がする。特徴はくしゃくしゃの髪とメガネ。


「文章の方印刷してきました」

「あ、はい。これがイラストです。こっちが挿入指定です」


他の作家さんがどうしているのかは知らないけれど、私はイラストと文章を別々に書いて、出版社の方でレイアウトしてもらっている。
だからこの打ち合わせは大事。
どの文章をどんな感じで入れてたいのかという意思をしっかり伝えなきゃいけないから。

編集者にも色々なタイプがあるとおもうけど、山形さんは私とは相性のいい人だ。
じっくり、まずは私の話を聞いて、それでいて出版社側の要求を伝えることも欠かさない。

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