夢のような恋だった
「そんなことないって」
「そんなことあるよ。さっきもマトモに話してくれなかったじゃない」
可能性なんてこれっぽっちもなさそうだけど。
少なくとも仕事で智くんと繋がっていられる間は、まだ運命が切れてないんだって思いたい。
まだ不満な顔を見せる琉依ちゃんに笑って見せて、私は話を切り上げるべく顔を上げた。
「さ、帰ろう。サイちゃん、電話終わった?」
「終わった。琉依、壱瑳が迎えに来るって」
「え? いいよ」
「俺、ねーちゃん送っていかなきゃだし。バイト終わってすぐ電車乗ったって言うからもうじきつくよ」
「……でも」
琉依ちゃんは逃げ場を探すように辺りをキョロキョロ見回して、群衆の中にいち早く壱瑳くんを見つけて観念したように両手を下げた。
「壱瑳」
「ただいま、琉依」
額には汗が浮かんでいるし肩も浅く上下しているから、きっと息を切らせているはずなのに、壱瑳くんはそれを感じさせない涼しい顔と単調な口調で琉依ちゃんに近寄る。
「壱瑳、……お兄ちゃんに逃げられた」
「だから気が早いって言ってる」
「だって。放っておいたら意地はるだけじゃん」