夢のような恋だった

家を出たのは、大事にばかりされたくなかったからだ。

自分が嫌だと思えば思うほど、大事にされることが酷く惨めに感じる。

そんなんじゃないのに、そんな価値ないのに。
――私は。


「次に帰るときは、ちゃんと独り立ちしていたいの」


自分の価値を、自分で納得したかったんだ。
家族に愛される価値があることを自分自身で確かめたかった。

智くんと別れて、家からも出て。
頑なに自分を追い込んできたのは確かかもしれない。

形にならない胸のもやもやから逃れるように必死にやってるつもりだった。
でも、自分の望みも見えないまま、がむしゃらにしていても届くはずない。

ここまで追い込まれて、ようやく見えてきた。

私はずっと、自分が好きになりたかったんだ。


「自分に自信が持てたら帰るよ」

「自信ねぇ」


サイちゃんは頬をポリポリかきながら続ける。


「なあ、ねーちゃん」

「なあに?」

「男って、甘えられると自信もてるんだぜ?」

「え?」

「ねーちゃんがなんで自信もてないのかは分からないけど、智にーちゃんはねーちゃんが頑なだったから自信なくしちゃったんじゃないのかな」


意味深な一言を残して、サイちゃんは「じゃあね」と駈け出した。
大きな歩幅で階段を数段飛び越して、あっという間に視界から消える。

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