夢のような恋だった
沸いたお湯で紅茶を入れて、カップから沸き上がる湯気を見ながら草太くんのことを考える。
出会ってからまだ一年も経っていない。
最初はお父さんに似てるかもって思ったけれど、付き合ってみればやっぱり違った。
話し上手で強引で、私一人ではたどり着けない場所に連れて行ってくれるんじゃないかと思えた。
だけどそれも。
「……一緒に歩けなきゃ意味なんかないのにね」
当たり前のことなのに、どうして気が付かずに過ごしてしまったんだろう。
どんなところに向かおうとしたって、歩くのは自分の足だ。
彼が引っ張ってくれたところで、私自身に付いて行く気が無ければどうにもならないのに。
クスリとわらって、スマホを取り出す。
ちゃんと草太くんと話そうと心に決めて。
【紗優です。きちんと話をしたいです。私の気持ちは変わってないから。都合のいい日を教えて下さい】
それからしばらくして来た返事はこうだ。
【やり直したい】
しょげた姿を想像して、胸が痛いような悲しいような気持ちになる。
【ごめん。でも気持ちは変わってない】
このまま、メールでお別れできたら楽だなと思う。
今のままなら綺麗な別れが出来るかもしれない。
逃げにも似た気持ちが頭にもたげるけど、そう上手く行くほど人生は甘くないらしい。
【会って話そう。明後日、仕事の後でどう? 二十時に志生駅前】
草太くんからの提案に、仕事のスケジュールと照らし合わせる。
昼番だから夜なら大丈夫か。
【分かった。待ってる】
【俺の言い分も聞いて欲しい】
最後の一言になんとなくイヤな予感を抱えつつ、それ以上返事は出さなかった。
先ほどまで湯気が出ていた紅茶はぬるくなっていて、仕方なく私はそれを一気に飲み干した。