夢のような恋だった


 翌日仕事に行くと、正社員の中牧さんが声をかけてきた。


「葉山さん、彼氏と喧嘩したの? 何度か見に来てたよ」


中牧さんは茂くんの友達で、私と草太くんが付き合うきっかけになった合コンの主催者でもある。私達のことは、自分が成立させたカップルということで気になっているらしい。


「えっと。……うん。別れると思います」

「マジ? だから最近茂がよく来るの?」

「茂くんは……関係無いです」

「そう? ま、どっちでもいいけど。葉山さんモテるよね」


そんなことないです、と返そうとした言葉は次の言葉に遮られる。


「いいよね。可愛いと色々自由になって。結構好きに休んだりするもんね。店長も君に甘いよなぁ」


おそらくは、私が休んだ三日間のしわ寄せを食らったのだろう。

普段はそんなに冷たい言い方をする人じゃない。
と思っても、心にはぐさりと来るけれど。

仕事を急に休んだのは本当のことだ。

人に迷惑をかけるっていうのは、それだけ不快にさせること。
だから今まではできるだけ迷惑をかけないように、感情を殺してでも笑っているようにしてきた。

でも今は、なんと言われても仕方ない。
私は、智くんを取り戻したい。


「……すみませんでした」


頭を下げると、中牧さんは気まずそうに「いや、いいんだけど」と笑う。

人の本音は分かりにくい。
分かっているけど時々疲れてしまう。

 
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