夢のような恋だった


 草太くんとの約束の日までに山形さんからの返事は来なかった。

返事が遅いということは、山形さんだけじゃなく、編集長やゲーム会社の方とも相談しているからだろう、と前向きに判断して、私はバイト先に向かった。


仕事はいつもどおりの忙しさだ。
開店前に軽く掃除をし、棚の整理をする。

基本はレジ対応をしながら、合間を見てブックカバーの折作業をしたり、在庫管理をしたりと見た目よりははるかに忙しいのが実情だ。

……迷惑をかけたんだわ。

昨日の中牧さんの言葉は思った以上に胸に引っかかっている。
せめて今日は役に立とうと、休憩もそこそこに仕事をこなした。


そして夕方、エプロンを外して私は店を後にした。

約束の時間にはまだ早いので駅ビルのお店をプラプラと見て回る。
お腹も空いたので、軽食もそこで済ませた。

約束の時間になって、駅前に移動すると、草太くんは先に来ていて壁に背中を預けていた。

スラックスにポロシャツという軽装で、私を見つけてすぐに笑顔を見せる。


「紗優」

「……草太くん。ごめんなさい、待った?」

「いや、いま来たところ。さ、何か食べようぜ」

「ご飯は食べたの。……話したいだけだから」


別れ話などなかったかのような態度に、私は不信感を感じずにはいられなかった。


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