夢のような恋だった
「将来のこと考えたら確かに正しいんだろう。でも俺にとって一番は、正しい選択をすることじゃなかった。間違ってても良かったんだ。離れずにいられるなら」
「智くん」
「……俺が、どんな思いであの高校を選んだのか、何も分かってない」
傷ついたような瞳は私の体を縛り付ける鎖のようだ。
縋り付きたいと思うのに動けない。
私は傷ついた顔をしていたのだろう。
彼は目を合わせて、悲しそうに顔を歪め、私から一歩離れた。
「ダメだ。ちゃんと話そうと思ったけどやっぱり無理だ。傷つける」
「無理なんかじゃ……」
「俺、ずっと考えてた。彩治と壱瑳が友達な以上、いつかもう一度会うことがあるだろうって。その時はちゃんと大人になって、過去のことなんて忘れて笑いかけようって。……でも俺は無理なんだ。ガキなんだよ、いつまでたっても」
吐き捨てるように告げて、私から目をそらす。
「あの日を少しも過去にできない」
なんてことだろう。
六年前に私の言葉が切りつけた彼の心臓の傷は、少しも癒えていない。
あれからずっと血を流し続けたまま。
少しも過去にできない、それはつまり、彼は私を許すことが出来ないってことだ。