夢のような恋だった


「智くん、ご、ごめ……」

「ごめん。やっぱり来なきゃ良かった」


私の目に浮かんだ涙から逃げるように、彼は走りだした。
一歩が大きく、すぐに小さくなっていく。


「待って!」


咄嗟に私の足もアスファルトを蹴った。
昔、彼に馬鹿にされたボテボテ走りで、陸上部だった智くんに追いつくはずなんかない。

でももう諦めたくない。

以前手を離したのは私から。
傷つけて、あんなふうに頑なにさせてしまったのも私。

だから、私が追いかけなきゃ。

許してもらえるまで追い続けなきゃ。



「智く……っきゃ」


自分の足に躓いて地面に転がる。

頬がアスファルトに擦れたのか、痛いというより熱かった。

周りのざわつく声、心配そうに近づく人もいる。
痛みをこらえて顔だけをあげて先を見ると、潤んだ視界にもう智くんの姿は見えない。


「……智、くんっ、ヤダ」


行っちゃった、と思ったら涙が堪えきれなくなった。
まだ昼間の熱気を失っていないアスファルトに、水滴が落ちてシミになる。

恥ずかしい。
こんな往来で転んで泣いているなんて子供みたいで。

でも、智くんに追いつけなかった事のほうが恥ずかしいをずっと上回るくらい悲しい。

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