夢のような恋だった
ゆっくりと智くんの手が伸びて、私が背中にしている壁につく。
私を見下ろすようにした彼は、以前よりずっと大人っぽくなった顔を少し歪めて問いかける。
「じゃあ、この間の暴力男とはどうなったの?」
「草太くんのこと? ……付き合ってたけど、先週別れた」
「じゃ、誰にも恨まれないか」
「え?」
次の瞬間、彼は私の肩に頭をのせた。
息が鎖骨の辺りにかかって、体が震えそうになる。
でも彼に逃げられたくなくって動かないように自分を堪えた。
走ってかいた彼の汗の匂いが鼻をくすぐって、それが酷く懐かしくて、嬉しいのに胸がぎゅって詰まって苦しくなる。
「しばらくこのままで居てよ」
「えっと、あの、あの」
頭が高校生の時に戻ったみたい。
ドキドキしすぎておかしくなりそう。
許してくれたって思っていいの?
問いかけたいけど今は離れたくなくて、ただ彼の服をギュッと握りしめる。
そうしたら、彼の腕が私の背中に回って抱き寄せられた。
「智くん」
「……本当はずっと会いたかった」
私達はそのまま時間を忘れて、路地裏の影に隠れるようにして抱き合っていた。