夢のような恋だった
10
どれくらい時間がたったんだろう。
我に返ったきっかけは、どちらのものか分からないお腹の音だ。
お腹に動いた感覚があったから私だったのかもしれない。
とにかく、ぐうう、という音とともに、反射的に智くんは私を離した。
それでも、暗がりでも顔がハッキリ見える程度の距離だったから、私は俯いた。
泣いていたから目も真っ赤で、お化粧も崩れてしまっているだろう。
智くんに、あまりにひどい顔は見せたくない。
だけど、智くんはそんなこと気にしていないようだった。
あっけらかんとした口調で自分のお腹を触る。
「ごめん。腹減ったよな。仕事明けだもんな」
「う、うん。でも、そういえば智くん、お仕事は?」
「まだ納期が先だから今は余裕があるんだ。俺ペーペーだし。指示されなきゃ動けないから」
そう言って私から離した手をポケットに突っ込んだ。
と思ったら再び両手を自分の目の前に広げて、きょろきょろと辺りを見回す。
「あれ、やべ。落としてきた」
「どうしたの?」
「紗優の絵本。どっかで落とした。……あー、さっき紗優がコケたところでだ」
頭をガリガリとかいて、私をちらりと見る。