夢のような恋だった
「……取りに行って来たいんだけど、逃げない?」
「逃げるのそっちじゃない」
「俺は逃げないよ」
「嘘。再会してから私何度も逃げられてる」
もうこれ以上逃げられたくない。
彼の服の裾を掴んで、私は必死に主張する。
彼は弱り切った子犬みたいな顔をして頬をかいた。
「じゃあ一緒に行く?」
「うん」
歩き出してからも、私は心配で彼の服を離せない。
智くんの歩幅の方が広いから、数歩歩くごとに彼の服を引っ張る形になった。
智くんはそんな私に、「何か壱瑳みたいだな」と笑った。
「壱瑳くん?」
「そう。アイツいつも人の服の裾を掴むんだ。癖みたいだな。でかくなったら直るのかと思ったけどまだたまに掴んでくる」
「言葉が追っつかないから手がでるんじゃない?」
言葉でなんか上手く言い表せない。
大切なのに大好きなのに、彼が自分のものだという実感は持てなくて。
不安だからどこかを掴む。彼が動き出したらすぐ分かるように。