夢のような恋だった


 何処がいいかと悩みつつ、結局は駅前にあるラーメン屋さんに入った。
私も彼もそんなにお金に余裕は無い。それに、高校時代もそういうところでばかり食べていた。


「紗優は塩だっけ?」

「うん」

「じゃあ、味噌と塩一つずつ。ライスも一つつけて」


高校生の時の、私達の付き合いはとても質素だったと思う。

智くんは陸上部で忙しかったし、私はお父さんに反対されていたから、バイトは夏休みとかの短期でしかやらなかった。

そんな高校生に余分なお金はない。
私達にはラーメン屋さんでも十分贅沢だった。

デートも、ウィンドウショッピングをしたり公園を歩いたり、サイちゃんたちを交えて遊んだり。
カラオケとか映画館とか、皆が行くようなところはあまり行かなかったけれど、楽しかった。
智くんと居るなら、それがどこでも幸せな気分になれた。


「……痣になってる。ごめんな」


不意に頬を触られた。
転んで擦りむいてしまったところだ。


「平気。まあ接客ではちょっと目立つかもだけど」

「イマドキ路上で思いっきり転ぶ人間が居るとは思わなかった」

「酷い! 智くんが逃げるからじゃない」

「そうだけどさ」


責めるような言い方をしても笑ってくれる。

嬉しい。
まるで、昔に戻れたみたいだ。

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