夢のような恋だった
11
*

 日々空気が重い。
本屋での私の立場が、どんどん悪くなっている。

仕事はちゃんとしているつもりだ。
むしろ今までよりも一生懸命に。

だけど、人の悪意は悪意を呼ぶらしい。
中牧さんを中心に、私に対する反感が渦を巻いている。


「葉山さん、明日休みだっけ?」

「はい」

「この間の彼とデート?」

「いえ、別件の仕事です」

「へぇ、凄いねぇ作家先生」


会話の中にさり気なく加えられる嫌味に満ちた言葉たちが、私の中に黒い点を植え付ける。
それがどんどん広がって、いつしか真っ黒に覆い尽くされてしまいそうで怖い。

こういう時、どんな風に返すのが正しいのかわからない。
笑ってみせようと思うけれど、表情はぎこちなく固まるだけだ。


「……そうでもないです」


ただそう告げて、うつむく。

悪意のある人の顔は、見るのが怖い。

子供の頃、おばあちゃんの機嫌を損ねるのが怖かった。

ママがいつも仕事でいなくて、口には出してなくてもおばあちゃんの不満は肌で感じられた。
だからいつもおばあちゃんの表情を伺って、できるだけわがまま言わないようにしていた。

でも、今はもっと辛い。
顔色を伺うことさえできなくなるなんて思わなかった。

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