夢のような恋だった

私は辺りを見回した。
誰もいない一人の部屋。入り込まれたら逃げる術はない。

……どうしよう。
体の震えが止まらない。

どこかに逃げなきゃ。

でも途中でバッタリ会ったら?
対峙した時に力では絶対に負けちゃう。

誰か、助けてくれる人。


一瞬頭をかすめたのは智くんだ。

だけど、智くんは今忙しい。
こんなことで振り回してちゃいけない。


お父さんか、サイちゃんか。
頼れるような人は家族しかいない。

私はサイちゃんに電話をかけた。


『はい。ねーちゃん?』


朗らかないつもの声に安心しつつ、声を出そうと思ったら震えすぎて言葉にならなかった。


「サイ、ちゃん。……たすけ……」

『ねーちゃん? どうした?』

「か、彼が。変な……電話かかってきて」

『彼って? あの時の男? ねーちゃん今何処に居るのさ』


私の様子から、不穏な空気を感じ取ったのだろう。
サイちゃんの声色が変わった。


「アパートに居るの。私、怖くて」

『分かった。今から行く。……悪い、俺抜けるわ』

そこで気づいた。
サイちゃんは一人じゃなかったんだ。


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