夢のような恋だった


十分位経って、呼び鈴がなる。
サイちゃんがどこに居たのかしらないけど、さすがにまだ早すぎるだろう。

心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしていて、声が裏返りそうだ。
恐る恐る扉に近づいて呼びかける。


「どなたですか?」

「開けて、紗優」


声の主は草太くんだ。
血が引いていくような感覚の中、私はチェーンが付いているのを確認して、ドア越しに話しかけた。


「私、もう草太くんに会うつもりない。帰って」

「ちゃんと話をしよう。俺とヨリを戻せば皆元通りになる。紗優が困ることもなくなるんだ」


むしろ今の草太くんに困ってるんだけど、それを言ったら暴発してしまうかもしれない。


「話は前にしたでしょう? 私の気持ちは全部話した。もう、草太くんのことは好きじゃない」


どうしてこうなったの?
ちゃんと別れるって言ってくれたのに。


「紗優も茂の嘘に騙されてたんだろ? 
紗優が俺のことが好きじゃなかったなんて嘘だ。何言われたのか知らないけど、俺はもう紗優のことだけ見てるから。安心してやり直そう?」


茂くんは一体草太くんになんて言ったんだろう。

中牧さんは茂くんが怪我したと言っていたし、二人の間で何かしらいざこざはあったんだろうけど。
それに巻き込まれるのは正直ゴメンだ。

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