夢のような恋だった
「茂くんのことは関係ないって言ったでしょう? 私、他に好きな人が居るの。だからもう草太くんとは付き合わない」
「そう言えって茂に言われたんだろ?」
「違う! 信じてよ」
草太くんの中で、全てが茂くんの嘘になってしまっているのかしら。
彼がぶつけてくる感情は、狂気に近い。
勝手に捻じ曲げた都合のいい妄想を、事実として私に押し付けてくる。
怖くて後ずさりすると、しびれを切らしたのか強くドアを叩かれた。
「紗優!」
途端に心臓がすくみ上がる。
怖い、怖い、怖い。体は勝手に震えだした。
「開けろよ!」
「嫌。もうやめて。警察呼ぶわよ」
私は耳をふさいで叫んだ。だけど、彼の声は止まらない。
「開けろ」
何度も叩かれるドア。
蹴られているのかもしれない、振動は下の方から感じる気がする。
声も荒くなって、もう懇願と言うよりは命令になっていた。
歯の根が合わず、カチカチと音がなる。
ここまでなってしまったら、本当に警察に頼るしかない。
警察って何番だっけ。
頭が回らない。扉を叩きつける音が恐怖心を煽ってきて何も考えられなくなる。
怖い。助けて。
こみ上げてきた涙が携帯の画面に落ちたその時、外から別人の声がした。