夢のような恋だった


「……どうして智くんが来てくれたの?」


ぽつりというと、近づいてきたサイちゃんが笑う。


「さっき、ねーちゃんから電話来た時、琉依と壱瑳と一緒だったんだ。俺が止めるまもなく、琉依がかけた」

「だって。タダ事じゃなさそうだったんだもん」

「それにしたって早いよな。まさか俺達より先に着くとは思わなかった」

「元陸上部を馬鹿にすんな」


からかうようなサイちゃんの声に、智くんは私から腕を離し照れたように頭をかく。


「……それにしても。こんなに騒いでも隣の人とか出てこないんだね」


ボソリと壱瑳くんが言う。


「集合住宅だからね。お隣づき合いとか無いから」

「それにしたって危ないよね。誰も通報もしてくれないんじゃん」


確かにそう言われるとそうだ。
何も無いときはそれが楽だと思っていたけれど、いざ危険が目の前に立ちはだかった時、こんなにも心細いものだなんて。


「とにかく紗優ねえちゃんを一人にできないよ。入ろ?」


琉依ちゃんがそう言って、私もハッとする。


「そうだ。皆来てくれてありがとう。入って?」


私が最初に扉を開けて、後ろにいた智くんが続いた。
その後サイちゃんが片足を踏み入れたところで、後ろにのけぞったかと思うと、扉は勢い良く閉められた。

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