夢のような恋だった
「え?」
「は?」
驚いて素っ頓狂な声を同時に上げるのは私達。閉まった扉からは、琉依ちゃんの声がする。
「でも遅いから私達は帰るよ。お兄ちゃん、ちゃんとボディーガードしてよね」
「ゲホゲホ。離せって琉依。死ぬ!」
「琉依……人殺しはダメだ……」
続いて、サイちゃんの声と壱瑳くんの声が段々遠ざかりながら聞こえる。
智くんは勢い良く扉を開け、「おい、お前らっ」と叫んだけど。響いたのは階段を駆け下りるような軽快な音だけだった。
「……何考えてんだ」
ため息と共に頭をおさえる智くんは、ちらりと私を見た。
私も伺うように彼を見つめる。
どうしよう。
部屋で二人きりって、今の微妙な関係の私達にとってはかなり気まずいと思うのだけど。
でも今は一人にはなりたくない。
私は彼の服を少し引っ張った。
「智くん入って。お茶出すよ」
「あー……うん。一応、鍵閉めるな? また奴が来たら困るし」
「うん」
また……来るかな。
来るかもしれない。
納得してくれたようにも思えるけど、今の草太くんは様子がおかしいから常識じゃ図れない。