夢のような恋だった
「草太くんに突き飛ばされた時、大丈夫だった?」
私がそう言うと、智くんは歯を見せておどける。
「平気。尻もちついただけだよ。殴り返すようなカッコイイ反撃も出来なくてカッコわりぃ。それより、紗優こそ大丈夫か?」
背中、と続けられて、そういえばようやく自分もそんな目にあったことを思い出した。
「平気。あ、ちょっと腕は擦りむいたけど」
袖からむき出しになっている部分が壁に擦れたからだ。でも大したことはない。赤くなっているだけだ。
笑ってみせると、智くんが傷口を擦る。
「消毒したほうがいいんじゃない? 救急箱ないの」
「あるよ」
立ち上がって、戸棚から百円均一で買った小さな薬箱を、そして冷蔵庫からお茶、そしてグラスを二つを取り出した。
私がお茶を注いでいる内に、草太くんが薬箱から、消毒薬と絆創膏を取り出す。
「見せて」
「うん。あ、お茶もどうぞ」
「うん」
治療してくれている間は、普段上にしか見えない彼の頭が近くに見える。
くっきりした二重。小さい頃は女の子みたいに可愛かったっけ。
「しみるよ」
言われた途端に痛みに似た感覚が襲う。
目をぎゅっと瞑ってこらえて、開いた時に見えた彼の顔に心臓が震えた。
智くんは私から視線を逸らさないまま、表情と声を曇らせていった。