夢のような恋だった
智くんは顔を真っ赤にして私の肩に頭を押し付ける。
「……昔と、立場逆じゃね?」
「だって。もう逃げられたくないんだもん」
「逃げないって」
照れたように笑った顔。
私の髪を優しく梳く指はやがて顎のラインをなぞる。
私は目をつぶって、彼のもたらす感覚に集中した。
智くんの指って、こんなに固かったっけ。
人差し指にタコみたいなのが出来てる。
六年前と変わったところ、変わらないところ。
昔の記憶と今を結びつけようと、私は全ての神経を彼に向ける。
「……あ!」
「え?」
いきなり、智くんが素っ頓狂な声をあげたので集中が途切れた。
驚いて目を開けると、彼は真っ赤になって困っている。
「ゴメン。逃げないけど、コンビニ行って来てもいい?」
「え……」
慌てて立ち上がられて、突き放された気分になる。
笑って「うん」と言ったつもりだけど、顔がぎこちなかったのは自分でも分かった。
智くんはそんな私を見て、躊躇したものの右手を差し出した。
「紗優も行こう」
「え?」
「一緒に」
その言葉が嬉しくて、私は差し出された手を掴んだ。
持ち上げられる体。つながっている手。
もう一人じゃない。
智くんは“一緒に”って言ってくれる。