夢のような恋だった
手前にある文庫フェアのコーナーでは、さっきから百面相をしながら幾つもの本を手にとっている女の人がいる。
本には人の人生が詰まってる。
本が好きな人は、きっと口下手でも、人間が好きな人が多いのだろう。
そんな人が楽しくゆったりと本を選ぶ場所、それが本屋だ。
居心地のいい場所にしたい。
私も、本が大好きだもの。
さっきの人がようやく選んだ一冊を持ってレジに来る。
「いらっしゃいませ」
お金とポイントカードを受け取り、ブックカバーの要不要を確認する。
お釣りを渡してから「少々お待ちください」と言ってカバーを付けた。
カバーを求める人は、外で読む事が多いか、本の装丁に傷を付けたくないかの場合が多い。
私は、無料で配布している栞を一枚挟んで渡した。
「あ、ありがとう」
「ありがとうございました」
栞にお礼を言ってくれた彼女に、私も元気にお礼を言う。
こんな風にお客様と気持ちが繋がる時ってなんだか少し嬉しい。
本屋は素敵な仕事だ。
ここはカフェ併設のお陰で珈琲の香りもしてとても素敵。
だから本当は辞めたくない。
でも。
ちらりと中牧さんを見ると、こちらを時々見ながら他の正社員さんとなにか話している。
陰口かな、と思って唇を噛みしめる。
でも自分の力だけではどうにもならないことも確かにある。
それは、大人になるまでに実感してことだ。