夢のような恋だった
「……なに?」
不安で声が裏返る私に、茂くんは腰をかがめて顔を近づける。
「俺、紗優ちゃんが好きだったんだよ。知ってたでしょ?」
「知らないよ。……茂くんは今まで何も言わなかったじゃない」
そうかなと疑うことはあったけど、ハッキリ言われたことなんか無かったはずだ。
「俺と付き合ってよ。……そうしたら君を守ってあげる」
「それは無理。好きな人がいるの。今その人と付き合ってる」
真剣な声音の茂くんにハッキリ告げると、路地の奥の方から別人の声が聞こえた。
「ほら、言ったろ、茂。紗優は案外軽いんだって」
全身の毛が逆立った。
暗がりから姿を現したのは、草太くんだ。
「……草太くん」
「紗優、頼みがあるんだよ。この間、あのガキがとった動画を消してほしいんだ」
サイちゃんがとった動画のことだ。
私を突き飛ばした時のもの。
これで警察に突き出すって言ったから?
「あれは私が撮ったわけじゃないからどうすることも出来ないわ」
「アイツに消させろよ」
「嫌よ」
「いいのか? そんなに強気になって」
そう言って、草太くんは自分のスマホを構えた。
瞬間、胸にざわりと嫌な予感が走る。
「……何?」