夢のような恋だった
「本当にこんなことする気なの? 茂くん。それでいいの?」
睨みつけると、茂くんは怯んだ。
「……俺」
「力ずくで私をどうこうして、それで満足なの? 茂くん」
「俺は」
草太くんより、茂くんのほうが善人だ。
必死に訴えかけるとあからさまに視線を泳がせる。
「やれよ、茂。あの動画を消さないと。……紗優が悪いことにならなければ、俺が負け犬になるじゃねぇかよ」
歪んだ顔でそういう草太くんに、幻滅する。
最低だ。
どうして草太くんみたいな人を、一瞬でも好きになってしまったんだろう。
「離して」
力一杯茂くんを押しのけようとする。
腕は引き剥がせないものの、茂くんの表情はすっかり弱気になっていた。
同時に、私の鞄から携帯が鳴り出した。
さっき電話した時に、着信音の設定も高めにしておいたからけっこう響く。
茂くんは全身をびくつかせて辺りを見る。
かけてくれたのはサイちゃんかしら。
助かった。
高らかに鳴る着信音は表通りまで響くはずだ。
これで誰かが来てくれれば。
「……草太、無理だよ。これ以上は」
「根性ねぇな。代われよ」
茂くんが手を離した隙を見て、体を低くして駈け出した。