夢のような恋だった
「おじさん、駅前まででいいです。電車のほうが速いから」
「分かった」
駅前には数分もかからないくらいで着き、智くんは私の肩をポンと叩き、「またね」というと、お父さんにはお礼を言って降りた。
サイちゃんが開けた助手席の窓から覗き込むようにして、お父さんに頭を下げる。
「……今度一度挨拶に行きます」
「分かった。待ってるよ」
お父さんと智くんも会うのは久しぶりだと思うんだけど、随分と気軽な調子で話している。
彼の姿が駅構内へ消えていったところで、私は身を乗り出して聞いてみた。
「ね、お父さん。お父さんが智くんに絶対敵わないことって何?」
「紗優、聞き耳立ててたな?」
お父さんは意地悪そうにそう聞き返し、車をスタートさせた。
「……期間だよ。紗優を好きな期間」
「え?」
「俺と出会った頃から、紗優は智くんの話をしてた。紗優と初めて会ったのは彼のほうが先だろ?
俺も出会った頃から紗優を娘として大切に思ってきたけど。長さじゃ彼には及ばない」
「あー確かに。智にーちゃんって、昔っから遊びに行くと『ねーちゃんどうしてる?』って聞いてきてた」
「ストーカーの素質ありそうだよな。そうならないのは彼の人柄の良さだけど」
「琉依曰く、単純馬鹿らしいよ。一回好きって思ったらもう他のもの目に入らないんじゃないかって」
ポンポン交わされるお父さんとサイちゃんの会話に、私は恥ずかしいやら嬉しいやらで黙り込んだ。