夢のような恋だった
「それにしてもあっつい」
日中温まってしまった部屋は、なかなか冷えない。
ここが安アパートだからというのもあるのだろう。
こうしてみると、実家はそれなりに気密性のよいマンションだったのだ。
汗でうなじに纏わりつく髪をかき上げ、手近にあったうちわで扇ぐ。
昔、同じような髪質を持った母親のこんな姿を、あこがれを持って眺めたことを思い出した。
お母さんなら。
衝動的に湧き上がったのはそんな気持ち。
どうやったら上手く生きれるの。
パパと、お父さんと。
お母さんはどうして二度も素敵な恋ができたの?
私なんて、何一つ上手く出来なかったのに。
羨ましいよ。
幸せって二度も掴めるものなの?
無くしてしまった恋がどれほど大切だったかなんて、イヤになるほど分かっているけれど。
さりとてあの時、あれ以外の選択なんて出来なかっただろうとも思う。
何度も思い返して、役に立たないシュミレーションもした。
それでも正しいと思える結論なんて見いだせなくて。
修復不能になってしまった自分たちの間柄を、遺骸を見つめるような気持ちで受け入れた。
きっとあの時から、私は自分を見失ってしまったのだろう。