夢のような恋だった
思い悩んでいる内に、鞄の中の携帯が鳴り出す。
取り出してみると着信は案の定草太くんだ。
『紗優? 仕事終わったんだろ』
「……終わった」
『いつまでも拗ねるなよ。飯まだだろ? 一緒に食おう』
「いいよ。仕事あるの」
『締め切り終ったんじゃなかったのか』
「新しい仕事入りそうなの。いい企画出したいから、しばらく仕事に没頭したい」
『その前に俺を安心させてくれよ』
「先に私を不安にしたのはあなただわ」
『紗優!』
強い語気に身がすくむ。
私は今まであんまりこんな風に咎められたことがない。
恵まれていた。……いすぎたんだ。
だからきっと今が苦しい。
彼氏に浮気されるのも、きっと今までの幸運の代償なんだ。
「……わかった。許すから。だから今は放っておいて」
『部屋に行くよ』
部屋に来て、何もせずに帰るはずがない。
体で宥められるなんてゴメンだ。今は触られたくない。
私は潔癖なのかもしれない。誰かに触れたその手で私を触るのって思ったら、胸を鷲掴みされたように苦しい。
「今日は実家に行くからゴメン」
『紗優』
「じゃあね」
実家に帰るつもりなんて無かったけれど仕方ない。
このまま部屋に帰ったら草太くんのペースに巻き込まれるだけだ。