夢のような恋だった
一番最近実家に帰ったのはゴールデンウィーク、しかも一日だけだった。
まあでも、この間電話がかかっていたからそれが行く口実にはなるか。
駅前でノートを一冊買う。
これにシナリオのアイデアを書き留めよう。
そのまま電車に乗り、自宅の最寄り駅で降りる。
懐かしい駅前。
高校時代は電車通学で、帰りはお父さんと一緒になることも多かった。
遅くなると送るよって、自分の駅はまだなのに一緒に下りてくれようとした人もいた。
彼のくせ毛を思い出して、唇を噛みしめる。
やめよう。
終わったことを未練たらしく思い出しても仕方ない。
歩きながら電話をかける。
『もしもし、葉山でーす』
楽しそうな調子の低い男の子の声はサイちゃんだ。
「サイちゃん?」
『え? ……ねーちゃん?』
「うん。ね、今寄ってもいいかな」
『ねーちゃん、どこにいんの?』
「駅前。近くまで来たからちょっと寄ろうかなって思って」
『マジ? ちょ、かーちゃん、とーちゃん。ねーちゃんが来るって』
どうやら全員揃っているみたい。
電話の向こうが俄に騒ぎ出し、せっかく帰る気になっていた気分が萎縮してくる。